【ゲスト教授】阿部修平 ”時代に一石を投じる”、その姿。

写真・記事:瀬尾泰章

私の話をじっと聞いていたソロス氏は、すっと立ち上がると、ミーティングテーブルを背にして自分のデスクのほうへゆっくりと歩き出した。そして、ハンガリーなまりの英語でこう言った。

「通貨が強くなると、その国の資産価値は上昇するんだ。君の話に、私はスパークを感じた。明日から1億ドル運用してほしい」

何が起こっているのか、私には十分に理解できなかった。(中略)後にも先にも、これほど興奮した事はない。真冬だというのに、ソロス氏のオフィスのエントランスに掛けておいたコートを忘れてしまったほどだ。

これは、阿部修平さんの著書「市場は間違える、だからチャンスがある」(日本経済新聞出版社)の中の一節だ。阿部さんの世界と戦うスピリットを感じてほしい、投資家だけでなく、アーティストやクリエーターにもこの本を読んでほしい、その想いで、ゲスト教授インタビューをお願いした。(今年1月某日、阿部さんのふるさと、札幌にて)

阿部さんのお話は、説得力にあふれ、力強く、そして僕たち自身が ”クリエイティブの種” なんだという事を教えていただいた。投資やビジネスの世界は、正直わからないところが多いけど、イメージを形作るプロセス、それに捧げる情熱はどんな分野においても同じものだと思う。

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阿部さんが世界で戦われる”モチベーション”というのはどういうものなのでしょう?

金融っていうのはアメリカでできたもので、資本主義は欧米の思想を元にしてるんです。そして、ほとんど欧米人が担っている。その中で、日本人として認められたいっていうのが大きいですかね。

アートにしても市場が大きいし、元々は欧米のを学んできたわけだから。音楽でもそうだよね。世界で一番聴かれているのは欧米のもの。そういう中で、日本人が認められるようになりたいよね。日本人がどこまでやれるかね。

前に阿部さんが、”アートと投資は似ている” という事をある講演会で言われたと聞いたのですが、そのあたり想いをお聞きしたいです。

投資だけではく、なんでもそうだと思いますよ。結局は自分の中にあるイメージ、世界を形にするって作業だから。例えば、同じメロディーでもジョン レノンがつくる音楽と、他の人がつくる音楽は違うよね。元々、その人の中に広がる世界が違うから。で、それを形にするのがアーティストという事。そう思うと、自分がやっている事っていうのは極めてクリエイティブなアートの世界なんですよ。

自分が考えているイメージが、企業のカタチとして形作っている。とりわけ新しいものを作る時のプロセスってものは、多分アーティストが自分の中にあるイメージを、例えば画家は絵という作品にする、瀬尾さんのように写真家は、自分の中にあるイメージを写真にする、そういう意味ではほとんど同じだと思うんです。

ただ、ビジネスの場合はそれを、みんな(仲間)でやるものだからね。オーケストラなんかもそうです。指揮者の人の音を分業してやってもらうってことは、1人ではできない。だけどイメージは1人の人が作っている。最初のイメージはね。それがどう多くの人の心に届くのかという事が大事だよね。

例えばスティーブ ジョブス、彼の成功っていうのは、アーティストと違って、商売として成功しないと世の中からは成功したって言われないんです。そうでないと判断がつかないでしょ。

彼は成功しようが、しまいがスティーブ ジョブスなんだけど、みんなが、彼はすごいよね、っていう理由は、 i pone とか i pad がたくさん売れているから。アーティストは自分自身はすごいって思い続けることも可能なんだけど、商売っていうのは、いくら自分がすごいと思っても、儲かっていないと認められないんです。

そういう意味では、100年後に評価される商売っていうのはないよね。商売は今、毎日評価されていかないと。100年後に評価のあるビジネスはない。しかしアート(芸術)はあるよね。今、評価されなくても、50年後、100年後に評価される可能性はある。まあ、そのあたりはアートと商売は違うかもしれないけれど。

スティーブ ジョブス本人、また彼のクリエイトしてきたものをみると、やはり彼はアーティストだと思うよ、根底は。”エネルギーの源泉” はね。スティーブ ジョブスの本によると、お金儲けを目的とはしていなかったみたいなんだけど、常にすごいものをつくっていくことが、ビジネスもよくなる、すごいものをつくる事が優先だった、という事だけど、実際に彼はそうだったんじゃないかなと思うよ。

若いアーティスト、クリエーターにとって何が必要、大切だと思われますか?

大切なのは、まず自分がどれだけの者か、知らないといけないです。それは客観的に自分を凝視できる能力っていうのは必要という事。ただ、だからといって、才能が仮にないと思っていてもやれる事、世界を動かす領域っていうのはたくさんあるんです。才能だけに頼らなくても。才能があってもなくても何が一番大事かっていうと、自分がやりたい事を、心の底から、自分の魂の導きに耳を傾けながらやり続ける事が一番大事だと思いますよ。でも、世の中の心に届くか届かないかという事は、客観的にみていかないといけないよね。

プロなら、自分だけがいいと思っているだけでは違う。素人の余興とプロは違うからね。素人の余興だったら自分よがりでいいと思うけど、プロっていうのは自分の中にあるものを表現、形にしてそれが多くの人の心を揺さぶる、そしてなんだかの影響を与える。そこにこう ”真理” があるっていうことではないかな。アーティストっていうのはその人、人物自体が大事なので、そこにどういう事を見つけていくかだね。そこに深さとか、新しさ、革新性をもっていかないといけないね。

阿部さん個人としての、今後の目標、夢、って教えていただけますか?

20代、30代、40代それぞれ違って、今、僕は50代で、もうすぐ60歳になります。考える事は少しずつ変わるんだけど、思い続けている事は一緒かな。

それは、何かしら、”時代に一石を投じる”、いうことをやりたい。僕のやっているのはビジネスだから、時代に一石を投じるってことは、何か革新的に新しい事とか、創造性に満ちあふれている事をもって、そして顧客、お客さんがいいなと思わないと駄目なんだよね。それも、ものすごく大きいスケールで。市場を作り出すって事をやっていきたい。

時代のニーズにあっていることをいち早く、革新的、創造的なやり方でやらないとできないんです。前にもいったように、企業っていうのはオーケストラだから、1人ではできない、だから良いオーケストラをつくる、それはリーダーシップが大事なんですよ。結局、クリエイトするっていうのは突き詰めていくと、ビジネスもアートも、”人間の事” なんですよね。

人間っていう、最も単純なんだけど複雑な存在に対して、どういう考え方を持つか。それは自分も含めてね。経営者は人間に対する理解がないと、みんなのやる気を起こさせないよね。人間っていろんな面があるからね。僕は、人間の暖かさ、みたいな、そういうところをみていきたいなと思います。これからどうしていきたいかっていうのは、自分に正直に、楽しく、自分がやりたいと思える事を素直にやっていく事だね。

+++++++++++++++++++ あとがき +++++++++++++++++++

阿部さんは、プライベートで、音楽活動も行っている。僕が今回、何より熱い気持ちになったのは、これほどの方なのに、音楽への純粋な気持ち、夢や情熱を持ち続け、地道に挑戦しつづける姿を見せていただいた事だ。

『ミュージシャンになるには、、、まずストリートから』、そういって、夜、札幌の狸小路でいきなり座り込み、路上ライブをやられた姿。音楽(ミュージシャン)を志すものにとって、一度はやってみたかった事、だったようだ。若者のストリートミュージシャンにも負けないくらい、アーケードには歌声が響いていた。

+++++++++++++++++++ ご紹介 +++++++++++++++++++

先日、2月6日(月)の、FINANCIAL TIMES(フィナンシャルタイムズ)に掲載されていた阿部氏の記事である。現在、震災で被害をうけた宮城県をはじめとする東北で、新たな、”時代に一石を投じる” 挑戦が始まっている。

© FINANCIAL TIMES / MONDAY FEBRUARY 6 2012

※FINANCIAL TIMES ウェブ版はこちらから

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written by

ウラハラ藝大代表 Photographer | 写真家

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