【ゲスト教授】高橋純/洋服は “誂(あつら)える” もの

写真と記事:瀬尾泰章

創業1903年、銀座で一番古い注文洋服店。

今回のゲスト教授は、洋服づくりのプロフェッショナル、銀座 高橋洋服店のご主人、高橋 純さんです。

高橋さんは、いつもカッコいい。僕はお店に何度か足を運んだがいつも、高橋さんの服装をみるのが楽しみだ。こんなビシッとカッコいい姿になりたいと本当に思う。

銀座の街を歩くならこうでなくちゃってね。そう思わされる。洋服にこだわる高橋さんは、自身の考え方や生き方、銀座で商いをする意味へのこだわりにも模範的な人だ。

ところで、洋服(スーツ)って作った事ありますか? 僕はない。というか、恥ずかしながら、洋服って作れるんだと、高橋さんに出会ってからはじめて知った。スーツはどこかの店で買うものだと思っていたんだから。

早速ですが、高橋さんは、若者の洋服についてどういう風にみられているのですか?

基本的に男の洋服(ジャケット、トラウザーズ、シャツ、ネクタイをつけるような)ってね、デザインとか極端にいえば、ファッション(流行)っていうのはないものだと思っているのね。

洋服に対して、こういう言い方をするのは良いかどうか分からないのだけど、僕がよくいうのは、「正しい洋服」と「正しくない洋服」、よくいわれる、イタリアンだとか、ブリティッシュっていうのはなく、イタリアンだって正しくない洋服もあるし、ブリティッシュだって同じ、最終的には、イタリアンもブリティッシュもいくつくところは同じで、『正しい洋服=良い洋服』と『正しくない洋服』しかないと思うのね。男が仕事で着る洋服っていうのは1種類であって、モード系(デザイン性の強い洋服)を着てはいけないっていうのが僕の考えなんです。

服飾の専門学校で、メンズ科っていうのがあるんだけど、ほとんどみんなモード系の洋服しか教えてないんですよ。結局我々が着ているようなちゃんとした背広、スーツっていうのを縫える職人さんがいなくなってきているんですね。まあ、そんなこともあって、8年前に小さな教室をはじめたんだけどね。

はたして、一般的に若い人が着ている洋服が正しいか、正しくないかっていわれると、いろんなところで勘違いがあって、あまり正しい洋服を着ている人がいないと思うんだね。オシャレをするって事と、正しい洋服を正しく着るっていうのは、別問題のような気がしますよ。

”正しい洋服”ってどういう意味ですか?

洋服ってね、あまりいじってはいけないものだと思っているんです。流行は本来なら、ない。デザイン性の入ってくる余地もないんです。デザインっていうのは、例えば、女性の洋服の袖の格好が、Aというワンピースと、Bというワンピースと全く違う。スカートの格好が全く違う。右袖が半袖、左が長袖で1枚の洋服だって通用するわけじゃない、それがデザインという名のもとにあれば。

男の洋服っていうのは、150年前からあの格好をしているわけ、これを基本的にはいじってはいけないんですね、それを今の若いコが着ているスーツは特にちょっといじりすぎているような気が、僕はするんだな。それは、ボタンの位置が高くなったり低くなったり、襟幅が広くなったり、狭くなったり、肩幅が広くなったり狭くなったり、ズボンが細くなったり、太くなったりね、多少トレンドによって変わってくることはあるけど、それはまた “デザイン”っていうのとまた違うような気がする。

ズボンの丈が長くなったり、短くなったりは本来はすべきではないんです。ところが、物凄く短いパンツを履いてみたり、とても長いズボンをはいてみたり、パンツの丈には正しい丈っていうのがあるはずなんですよ。だからそういう意味で若い人たちが着ている洋服っていうのはいじりすぎちゃっているのかなっ、ていう気が僕はずっとしているんです。正しい洋服っていうのは、そんなにある日突然、長くなったり、短くなったりしないものだと思っているし、すべきではないと思ってます。

やはりビジネスとして、様々な企業がそれなりにいろいろ仕掛けていかないとビジネスとしてなりたっていかないわけだから、そういう意味では最近では、ファッションという名のもとにいじる傾向にもあるのかもしれないけどね。しかしそれが果たして我々のやっている洋服づくりで必要かどうかは分からないですね。

高橋さんは、職人としての顔と経営者としての顔、2つの顔があると思うのですが、それぞれモットーのようなものありますか?

経営者として、職人として2足の草鞋を履いている者として、根本的には同じだと思います。いかにお客様に良い洋服が提供できるかにつきますね。よく「経営者と職人の両立は難しいんではないですか?」って言う人もいますが、同じだと思いますよ。大企業でもないしね、ちゃんとした仕事をしてお客様に喜んで頂いたら、また次の注文につながるわけなのでね、お客様にとって良いものを提供するという事だけです。

良く、うちのスタッフには言ってますが、注文洋服屋なんだから、お客様のこういう洋服を作って欲しいとおっしゃるような洋服を作って差し上げなさいって。ただ、その中で自分のところの洋服、高橋洋服店の洋服という、アイデンティティだけは失わないようにしなさいよって、どこかでうちの洋服なんだよってわかる洋服にしなさいよって言ってます。だから、あんまり我々の洋服作りの基本とかけ離れている注文がきてしまったらお断りしてもいいよって伝えてあります。

あとはね、僕はよく思うんですけど、銀座の商人として、銀座の他のお店にご迷惑がかからないような商売をしたいと。これは僕の基本的なスタンスなのね。銀座っていう街で一軒変な事をすると、銀座のあそこのお店は駄目だと誰も言わないで、「銀座も駄目になったな~、あんな店もあるぜ」って言われて、銀座全体が駄目になっちゃうのね。

銀座って他の繁華街よりも地域社会がしっかりしていると思っているのね、僕はたまたま銀座の商店街のお手伝いを少ししている人間として、いつもみんな(お店やビルのオーナー)にお願いしているのは、とにかく商店街の集まりに参加してください、と、とにかく顔が見える商売をしましょうと。

顔が見えないと、どうせ俺が何やっても誰も知らねえから、何やってもいいやって気になってしまう。ただ、顔が分かっていれば、なかなかおかしなことできないじゃない。面が割れちゃってるから、悪い事できないんだよって気になるだけでも違うと思うんだよね。そうであれば街って良くなると思うんだよね。違法看板も出せなくなるしね。顔がみえるような商いをすれば、それだけで、街の安全というか、風紀って守っていけると思います。

洋服づくりの一番の楽しみや面白さ、この仕事をやってて嬉しかったことなど教えていただけないでしょうか。

職人冥利につきるのは、お客様に「高橋さんが良いっていうんだったらそれがいいよ」って言っていただけるのは、「おっ、やったあ」って気持ちになりますね。

あとね、昔、地下鉄に乗ってて、本を読んでいたんですが、パッと前みたら「あっ!うちの洋服だ」って。紺の無地の洋服だったんだけどね、顔をあげるとうちのお客様だったの。それはどういう事かっていうと自分の洋服にちゃんとアイデンティティがあるって事なのね。全体的なスタイルもそうだけど、ポケットのカタチとか、フロントのカットとかね。お客様が作りたいとおっしゃった服を作った中でも、自分の店のアイデンティティはちゃんとでている。嬉しかったですね。

もう1つこれに似たような事あるのだけど、これまた電車の中だったんですが、同じ車両でかなり向こうに座っている紳士が下向いて本を読んでいたの。実に良い洋服着ているんだよ、で、「いいな~俺もああいう洋服つくりたいなー」って、しばらく眺めていて、ふっとその人が顔をあげたらうちのお客様だったの。これもかなり自信がつきましたね。自分で作りたい洋服ができているって事ですからね。

この2つのエピソードっていうのは、自分の人生の大きな喜びなんですよね。自分の作った洋服にアイデンティティがあるっていうのと、自分が作りたいなって思う洋服が出来始めているっていうね。作り手として凄く嬉しい事ですよ。

注文服ができるまでの工程はこちらからご覧になれます。

モノづくりをしている沢山の若い人たちに何かメッセージをいただければ。

やっぱり「軸」ではないですかね。自分が何をしたいんだっていうのがブレてないようにする。まあ、若い頃っていうのは暗中模索でいろんな事に挑戦しないといけないと思うのだけど、ある点に到達したら、その軸ブレないようにね、それにいろんなモノを肉付けしていくのは良いけど、軸がブレたら、肉付けもへったくれもないわけだからね。

あとは、マスターベーションで終わらない事だね。自己満足で終わってしまったら誰も評価してくれないわけじゃない。死んでから大評価をうけるかもしれないけど、今の時代 ”武士は食わねど高楊枝”ってわけにはいかないんですよ。やっぱりモノづくりをする人は、他人から必要とされないといけないと思いますよ。

今後の高橋さんの夢、目標など教えてください。

そうねえ。

洋服って買うもんだと思っている人が多いんだけど、洋服って買うもんじゃないんだよ、“誂(あつら)える物” なんだよね。そういう意味ではね、洋服って買うもんじゃないんだよ、誂(あつら)える物なんだよっていう、布教活動みたいなものができればいいなと思います。

で、「あそこにいけば何でも相談にのってくれる」っていう洋服屋になりたいですね。お客様に言われたものを作るだけではなくて、なんか相談にのって差し上げられる、そう、駆け込み寺のような洋服屋になれればなと思いますね。あそこに相談にいけばかっこ良くしてくれるよってね。そしてもっと日本人をオシャレにしたいよね。

そういえば、うちの息子は今ローマに服作りの修業にいっているんだけど、この間、おもしろい事言ってたんだよ。ローマも背広着ている人はかなり減っちゃったけど、その代わり、背広着ている人は、”いい背広” を着ているって。ほう、そうなんだと思ってね。

極論からいえば、僕は今後、日本人が背広を着なくなればいいと思うのね。みんなして背広着なくていいじゃんってね。そのかわり、せっかく背広着るんなら” 良い背広” を着ろよっていう時代がきてくれるといいね。そんな時に、背広ってそこらの店にパッといって298(ニーキュッパ)で買うものではなく、誂(あつら)える物なんだって、そんな風潮になればいいなと。和服と同じですよ。和服は100%オーダーでしょ。それは中古品であったりお下がりもあるけど、新しく手に入れるには、1から作るわけだから。だからせっかく着るなら、本当に背広を着ることに喜びを抱いていただけるような、そんな世の中にしたいなと、本気で思いますよ。

何回もいうようだけど、洋服って買うもんじゃないよ、“誂(あつら)える” 物なんだよって、世の中の人に徹底できればいいなって思います。それが僕の夢であり目標かもしれないな。

高橋洋服店HP:http://www.ginza-takahashi.co.jp/(This website is powered by HABITUS

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written by

ウラハラ藝大代表 Photographer | 写真家

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